ヤスは入社以来、「死骨湖」とステッカーを貼った自転車に乗っていた。 長距離用のその自転車は、たまに借りて乗ると、ハンドルに手が届くか届かないかくらいの前傾姿勢になる為、非常に乗りづらく、カーブを曲がりきれずに車に轢かれそうになった事もある。その度に、借りた分際であるにも関わらず文句を言っていた。 しかもつい最近聞いたのだが、その自転車で利尻島まで行った事があるという。支笏湖だけではなかったのだ。「ふーん」と聞き流していたが、後で地図を見ると最北端ではないか。もっと皆に言って回って自慢しても、罰は当たらないと思うのだが、ヤスは本当に謙虚の鏡である。 その思い出の自転車を、この春ついに廃車にする事を決め、新しい自転車を買うと言い出した。私は去年まで自分が使っていた自転車があるのを思い出し、「ゴミに出したら金がかかるからヤスにやろう」と思い立ち、先日引き渡した。さびさびの自転車はヤスの手によって生まれ変わり、ぴかぴかになっていた。 あまりに綺麗にし過ぎたのか、嫁に自転車を狙われてると言い出したので、「あんたよりチカに使ってもらった方があたしも嬉しい」と言うと、「えーー」と言いながら、本人も納得していた。 |
0 件のコメント:
コメントを投稿